『
なぜ贋(がん)作は探し出せずにいるのか?ベルトラッキ詐欺事件|NHK 未解決事件』を観た。
私がこの番組を観て何より驚いたのは、日本の美術館の絵画購入システムが「まがい物」であった点である。具体的には、学芸員は、絵画を購入するのに、当該作家の過去の作品や筆致、嫌いな色などを研究したのちに購入しているわけではなかったのである。
私には、学芸員が絵画を購入する決め手は、一般的に、『サザビーズ』や著名画商といった権威、ただひとつであったように見える。
自分が画家であったり、家族が画家であれば、人間は、ある程度「作家の特徴」を掴むことができるようになる。私の父は長野県の県と中信のふたつの美術会の会員であるが、私自身は絵を描く才能に恵まれなかった。私は絵を描くことができないが、絵画鑑賞は大好きで、作家の特徴をある程度掴むことができる。作家の絵を複数観ていると、作家が同じ色でも、ある特定の色を避けることなども少しわかってくる(おそらくある特定の色が「嫌い」なのだ)。ベルトラッキ氏は、非常に才能のある画家なので、技術力がある分、私よりも絵画を見る目が確かなのだ。
税金を原資に絵画を購入する公の美術館の学芸員は、本来、ベルトラッキ氏と同等の鑑識眼を持つ人物が就任すべきだと私は思う。そうでなければ、いつでも贋作を掴まされる可能性がある。著名作家の絵画は、美術愛好家以外にも、投機筋に愛されるものだからだ。そして、西洋絵画は、もっとも投機筋に愛される物のひとつであると同時に、西側の強力な「ソフトパワー」(@ジョセフ・ナイ氏@ハーバード大学)のひとつなのである。権威は、美術界において、ロンダリング機構として機能しうる(利用されうる)。
私はいま「(@ジョセフ・ナイ氏@ハーバード大学)」で、読者に決定的なヒントを与えたつもりだ。ここを調べれば、私の言わんとしていることや、権威とは何かが分かるであろう。
そもそもNHKがベルトラッキ氏を「犯罪者」と位置づけるのも、「西側の人々がベルトラッキ氏を才能のある人物として扱っている様」を困惑気味に見せるのも、偏見の刷り込みである。ベルトラッキ氏は、「**という作家の絵が本物であるかどうかを鑑定し、本物であれば買い付けてきてほしい」という仕事を依頼され、自分が当該絵画を描き下ろしたうえで、発注者に、「当該作家の絵は本物だったので、買い付けてきました」と言って発注者に「納品」したわけではない。ベルトラッキ氏は、「ちょっと権威をおちょくっただけの、才能のある作家」という見方もできるのだ。ベルトラッキ氏は、「絵画の範疇におさまらない、希代のアーティスト」と言うこともできるのだ。この見方はおそらく日本人にはほとんど理解されないであろうが、西洋人の西洋絵画愛好家には特段「珍しい見方」ではない。