別件を調査する必要があって記事を見ていたら、不思議なタイトルが目に飛び込んできた。『
「解除不可能」ロシア・ハッカー犯罪集団のコンピューターウイルスはなぜ解除できたのか? サイバー攻撃を受けた徳島・半田病院、復旧の裏で起きていたこと【前編】』
by 角亮太 2022/12/27 ( 一般社団法人共同通信社 )
『
「身代金はもらった」ロシア・ハッカー犯罪集団が明かした交渉の一部始終 サイバー攻撃を受けた徳島・半田病院、復旧の裏で起きていたこと【後編】』
by 角亮太 2022/12/27 ( 一般社団法人共同通信社 )
『
ランサム被害の徳島・半田病院、報告書とベンダーの言い分から見える根深い問題』
by 島津 忠承 2022.06.13 ( 日経クロステック/日経NETWORK )
一番最後の記事は最初のページしか読むことができなかったが、この3つを時系列で書くと、次の二重線内のような事件であったようだ:==========================================
2021年10月31日未明 「ロシアのハッカー」である『ロックビット』が、フォーティネットのVPN装置『FortiGate 60E』経由で、半田病院の電子カルテシステムに侵入し、情報を暗号化したうえで、プリンタプロトコルを操作して暗号を解くためには660万円(6万ドル)を支払えという通知を院内プリンタで印刷して大量出力した。『ロックビット』は、660万円の受け取りに利用するために「半田病院専用のID」を用意していた。
2021年11月3日 「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が、半田病院に、とある業者を紹介した。半田病院は、「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」から紹介されたその業者にシステムの復旧を7千万円で依頼した。
2021年11月5日 「半田病院専用のID」を所持した人物が「被害者から手数料をもらっている交渉の代理人」を名乗り、『ロックビット』と交渉を開始した。
2021年11月9日 「半田病院専用のID」を所持した人物 と『ロックビット』とは330万円で交渉を成立させた。
2021年11月19日 "「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"は、『ロックビット』によって暗号化されてしまったシステムの一部を復旧した。
2021年11月21日 「半田病院専用のID」を所持した人物が『ロックビット』に約330万円をビットコインで支払った。
2021年11月23日 『ロックビット』が半田病院に復号鍵を渡した。
2021年12月末 "「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"がシステムを復旧した。
2022年1月4日 電子カルテが再稼働した。
2022年1月26日 一人の日本人が『ロックビット』に接触した。『ロックビット』に「半田病院で人が死んでいる」と伝え、『ロックビット』が身代金の受け取りに利用するために用意した「半田病院専用のID」を伝えた。『ロックビット』はこの人物に無償で復号鍵を渡した。
2022年6月 この事件を調査していた「有識者会議」から報告書が出た。"「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"が『ロックビット』に暗号化されてしまったデータを復旧した方法について、当該業者の「独自のプログラム」によって『ロックビット』の暗号を解除した、と報告した。
2022年6月下旬 『「解除不可能」ロシア・ハッカー犯罪集団のコンピューターウイルスはなぜ解除できたのか? サイバー攻撃を受けた徳島・半田病院、復旧の裏で起きていたこと』という記事を執筆した角氏が『ロックビット』にインタビューを申し込む。
2022年6月 角氏が"「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"の幹部にインタビューする。幹部は、2022年1月26日に『ロックビット』と接触した人物について、「そんな個人の匿名ハッカーが出る幕じゃない。それだけは言える」。「まして無償で復号鍵を入手するなんて、聞いたこともない」と断言した。
2022年10月 角氏がインタビュー中、『ロックビット』から半田病院の復号鍵を得る。角氏が復号鍵の調査を吉川孝志氏( 当社調べ:三井物産セキュアディレクション株式会社の人物と思われる:
https://www.mbsd.jp/research/t.yoshikawa/ )に依頼する。吉川氏は、復号鍵にデバイス内部を検索して暗号化されたデータを復号する機能があると角氏に報告した。
2022年10月 角氏が、自身が『ロックビット』から得た半田病院の復号鍵を、有識者会議の関係者に渡す。有識者会議の関係者の関係者は、当該復号鍵が半田病院のものであると認めた。
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以下、上記を読んだ私の考えを記述する。読者が実在していると確信できる登場人物は、次のとおりである:*半田病院
*半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者
*角氏
*島津氏
*吉川氏
読者が実在を確信できない登場人物は、次のとおりである:*『ロックビット』
*"「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"
*有識者会議
時系列から分かることは、半田病院が、2箇所に金を支払っているということである:*半田病院 ( 300万円) => 『ロックビット』(「ロシアのハッカー」で、本件の「加害者」と位置づけられている組織)
*半田病院 (7000万円) => "「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"
が、読者から見ると、半田病院は、次のように金を支払ったように見える:*半田病院 (7300万円) => 「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」の周辺の組織
なぜなら、読者の立場では、"「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"が実在していることを確信できないからである。
読者の立場では、『ロックビット』は、「恐ろしいハッカー集団」というより、身代金をせしめる犯罪組織の「下っ端(スケープゴート役)」に見える:*本件では、『ロックビット』が「加害者」と位置づけられている。
*『ロックビット』は、半田病院に600万円を要求したが、300万円しか受け取ることができなかった。
*『ロックビット』とは、被害者以外の人物(ライター)も接触することができる。
*『ロックビット』は、半田病院から300万円を身代金として受け取り、復号鍵を渡したが、その事実を組織内で「成功事例」として共有なり記録なりをしていない。『ロックビット』は成功して終了した案件について、未解決案件であると誤解し、別の日本人にも復号鍵を無償で渡してしまった。
*角氏は、「2022年1月26日に『ロックビット』と接触した日本人の身元」を割り出せたが、『ロックビット』は割り出せなかった。
*吉川氏の発言から、『ロックビット』の「ウィルス」なるソフトウェアが、デバイス検索→暗号化機能を持つ「自動ツール」であったことがわかる。私の推測では、それは、復号鍵を入れる窓があり、そこに復号鍵を入れるとハッシュ化されて、内部の値と合致した場合に動き出す仕組みのソフトウェアである。記事に半田病院のカルテシステムのOSが『Windows』であったと記載されているので、早い話「WindowsのCドライブディスクのバックアップツール」のようなものであったと思われる。そのソフトウェアを「恐ろしい悪いハッカー」以外のソフトウェア業者が自社製品として販売する場合、「ドライブの指定箇所を暗号化してバックアップできる高セキュリティツール。パスワードを入れるだけで簡単暗号化! プライバシーをガッチリ守る! 」といったようなフレーズで販売されるに違いないようなツールである。
『ロックビット』が「オレオレ詐欺事件」の「出し子」のように見えるいっぽう、"「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」が半田病院に紹介した業者"には、「ラスボス」感がある。*『ロックビット』との交渉に入る前に、半田病院から7000万円を受け取った。
*「半田病院に『FortiGate 60E』を販売した業者」と半田病院の双方に、『ロックビット』の暗号を解ける独自ソフトウェアを持っていると誤解させた。
*この事件を調べるライターに、「我々は暗号化を解く独自ソフトなど持っていない」と事実を告げて平然としている。
*この事件を調べるライターに、「『ロックビット』は個人の匿名ハッカーが交渉できる相手ではない」と断言している(『ロックビット』がどのような相手であれば交渉するのかをよく知っていることをうかがわせる。いわゆる「事情通」に見える)。
本件の鍵は、『ロックビット』ではなく、半田病院と有識者会議にありそうだ。その態度が不可解だからである:*半田病院は、本件の解決に金を払ったことを世間に知られたくない。
*有識者会議の報告は、身代金を支払った事実を伏せたいという半田病院の希望と合致していた。この希望は、「事実」として「報告」してはいけないものである。なぜなら、「事実ではない」からである。
有識者会議の態度から、「『ロックビット』ではない本当の犯人」は「非常に大物」で、「半田病院と有識者会議の側から、そいつが犯人であると名指しできない相手」であることが推察できる。つまり、『ロックビット』の背後にいるのは「ロシア政府系」ではなかろう。なぜなら、ウクライナ=ロシア戦争後の日本の報道を見る限り、犯人がロシア政府系であれば、日本人は安心してとことんまでこき下ろすに違いないからである。
私の考えでは、日本の「有識者」が敵にしたくない(できない)相手は、宗主国にいる。
仮に私の推理が正しい場合、有識者会議は、「報告できない」と報告するか、仕事を降りるべきであった。または、最悪の策ではあるが、角を立てたくないが仕事もやらないでおきたいときの日本型方便「バカになる」を使うべきであった(具体的には、「調べたが、自分たちの力が足りず、よくわからなかった」というやつである)。
【編集履歴】
2024/Aug/12 21:03 誤字を修正しました。一部「複合鍵」となっていたところを「復号鍵」に変更しました。